少し前のことになりますが、法務省が、各地の裁判所が言い渡した民事裁判の判決を公的な「情報管理機関」に集約してビッグデータとして活用できるような仕組みを検討しているという話がありました。くわしくは以下のサイトを参照していただければと思いますが、個人的には法務省が考えているようなビッグデータとしての活用(※1)は難しいのではないかと考えています。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20220624-OYT1T50307/

 近年、Google社のBERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)等に代表される自然言語処理モデルが急速に発展しているところですが、いくら自然言語処理が発展しても、そもそも書いていないことについては処理できないからです。

 どういうことかというと、判決書をもらっても裁判官の価値判断や結論しか記載されておらず、その事実が認定された経過や、当該主張を棄却する理由が書いてないことがわりとあるのです。「~が許されないと解すべき理由もない。」とか、「~を総合考慮すれば、Aという事実が認められる」というようなものです(※2)。たまに適用された法令すら不明なものもあるので、それと比べればかわいいものですが・・・

 こういった判断の経緯が不明確な判決をビッグデータ化しても、裁判の展開予測は「裁判官がAという事実が認められると判断するかによる」とか、「理由はよくわからないけど勝訴の確立○%」といったような意味の無いものとしかならなさそうな気がするのですよね。

 個人的に、判決に理由の記載が必要とされていたり(民事訴訟法253条1項3号)、理由不備が上告理由にもなる(同法312条2項6号)のは、「理由という欄にとりあえずなにか書いとけ」程度の意味ではなく、司法権の行使が適正であったか否かを事後的に判断できるようにするためだと考えているので、これを機に、判断に至った経過が明確な判決が増えるといいなと思います(※3)。

・・・なぜか和解で終わる事件の割合がおおきく増加して終わるような気もしますけど。

※1 法務省的には、当該ビッグデータが裁判の展開予測等に利用されることを期待しているとのこと。
※2 司法研修所でこういうことを書くと「判断過程は明確に書きましょう」的な指摘がなされていたような気がするのですが、実務では具体的な理由付けを記載していなくとも許されるようです。
※3 ちなみに、控訴理由に「理由不備」を書いてもまず理由不備だったとは書いてくれません。この「とりあえず理由っぽいことが書いてあれば具体的な記載はなくてもOK」という運用が、ヘンテコ裁判が生まれる原因の一つになっているように思うので、ぜひ裁判官のみなさまには具体的かつ説得的な書面を書いて当事者(せめてどちらか一方だけでも)を説得していただきたいと思います。