平成29年 海事代理士試験 憲法の解説

1.次の文章は日本国憲法の条文である。【  】に入る適切な語句を解答欄に記入せよ。(5点)

(1) 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び【公衆衛生】の向上及び増進に努めなければならない。

→ 根拠法令は、憲法25条2項。
○×問題で出題された場合は、「すべての生活部面について」という部分がひっかけっぽく見えてしまうので注意。

(2)集会、【結社】及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

→ 根拠法令は、憲法21条。とてもメジャーな条文です。
ちなみに、結社とは「多数人が集会と同じく政治、経済、宗教、芸術、学術ないし社交など、さまざまな共通の目的をもって、継続的に結合すること」(芦部憲法より。)と解されています。政党の憲法上の根拠もこの21条です。

(3)参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除 いて【60】日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。

→ 根拠法令は、憲法59条4項。条文そのまんま

(4)地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、【地方自治の本旨】に基いて、法律でこれを定める。

→ 根拠法令は、憲法92条。条文そのまんま

(5)最高裁判所は、【訴訟】に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。

→ 根拠法令は、憲法77条1項。条文そのまんま。
この条文も、○×問題で出題されたときは、「弁護士」の部分がひっかけっぽく見えてしまいがちなので要注意。

2.日本国憲法及び判例を参照した次のア~オについて、正しい場合は○を、誤っている場合は×を、解答欄に記入せよ。(5点)

ア.企業者が自己の営業のために労働者を雇用するにあたり、特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んだ場合、それは当然に違法となる。

答え:☓

参考条文:憲法19条・14条

根拠判例:最高裁昭和48年12月12日大法廷判決(三菱樹脂事件)
判例は、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んだとしても、当然に違法としたり、直ちに民法上の不法行為とすることはできないと判断しています。
なお、同判例は、企業者が、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることも違法ではないとも判事しています。

イ.「検閲」とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象と し 、 その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を 禁止することを、その特質として備えるものを指す。

答え:○

参考条文:憲法21条2項

根拠判例:最高裁平成5年3月16日第三小法廷判決(第一次家永教科書事件)
なお、判例の事案では、教科書検定は、一般図書としての発行を何ら妨げるものではなく、発表禁止目的や発表前の審査などの特質がないから、検閲にあたらないと判断されています。

ウ.両議院の議員の資格に関する争訟について、議員の議席を失わせるには、総議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

答え:☓

根拠条文:憲法55条
「総議員」ではなく、「出席議員」の3分の2です。
出席議員にしておかないと、3分の1以上を欠席させることで議席を失わせることができなくなるので、この制度の意味がなくなってしまいますよね。

エ.予算について、参議院で衆議院と異なった議決をした場合に、法律の定める ところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき 、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取った後、国会休会中の期間を除いて三十日以 内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

答え:○

根拠条文:憲法60条2項
予算や法律案に関する条文は頻出ですね。

オ.前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。) は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する。

答え:○

参考条文:憲法13条

根拠判例:最高裁昭和56年4月14日第三小法廷判決

所感

回答の根拠:条文7・判例3

例年どおり条文中心の出題でした。
毎年度書いている気もしますが、憲法攻略のカギは条文です。過去問で出題されている条文を中心に学習を進めていきましょう。
時間が有り余っているとかでなければ、参考書を読む必要はありません。