海事代理士法のまとめ第3弾。今度はメインの業務関連です。

1 できる業務の範囲

海事代理士の業務の範囲については,1条が定めています。()の中を飛ばして読むと,「他人の委託により、別表第一に定める行政機関に対し、別表第二に定める法令の規定に基づく申請、届出、登記その他の手続をし、及びこれらの手続に関し書類の作成をすること」ですね。

この業務範囲を超えて仕事をしてしまうと,弁護士法や司法書士法等の他の業法に違反してしまうことになります。海事関係は,できる業務の範囲が錯綜していますので,業務の範囲については注意が必要です。持っている他の資格によってできるものも出てくると思いますので,よく確認しましょう。

(業務)
第1条 海事代理士は、他人の委託により、別表第一に定める行政機関に対し、別表第二に定める法令の規定に基づく申請、届出、登記その他の手続をし、及びこれらの手続に関し書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。)の作成をすることを業とする。

別表第一 (第一条関係)
一 国土交通省の機関
二 法務局若しくは地方法務局若しくはこれらの支局又はこれらの出張所
三 都道府県の機関
四 市町村の機関

別表第二 (第一条関係)
一 船舶法(明治三十二年法律第四十六号)
二 船舶安全法(昭和八年法律第十一号)
三 船員法(昭和二十二年法律第百号)
四 船員職業安定法(昭和二十三年法律第百三十号)
五 船舶職員及び小型船舶操縦者法(昭和二十六年法律第百四十九号)
六 海上運送法(昭和二十四年法律第百八十七号)
七 港湾運送事業法(昭和二十六年法律第百六十一号)
八 内航海運業法(昭和二十七年法律第百五十一号)
九 港則法(昭和二十三年法律第百七十四号)
十 海上交通安全法(昭和四十七年法律第百十五号)
十一 造船法(昭和二十五年法律第百二十九号)
十二 海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(昭和四十五年法律第百三十

六号)
十三 国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律(平成十六年

法律第三十一号)(国際港湾施設に係る部分を除く。)
十四 領海等における外国船舶の航行に関する法律(平成二十年法律第六十四号)
十五 前各号に掲げる法律に基づく命令

2 海事代理士でない者の業務の制限

そして,海事代理士の業務については,法令に別段の定めがない限り海事代理士でない者が業として行うことができません(17条1項)し,海事代理士でない者が海事代理士と紛らわしい名称を使うことも禁止されています(17条2項)。罰則あり(27条・28条)。

・・・でも,紛らわしい名称を使用した場合の罰則が5000円以下の罰金ってやすすぎませんか。

※弁護士法違反の場合は「非弁」というのですが,海事代理士だと「非海」になるのでしょうか。情報お待ちしております。

(海事代理士でない者の業務の制限)
第17条 海事代理士でない者は、他人の委託により、業として第一条に規定する行為を行つてはならない。但し、他の法令に別段の定がある場合は、この限りでない。
2 海事代理士でない者は、海事代理士又はこれと紛らわしい名称を用いてはならない。

第27条 第十七条第一項の規定に違反した者又は第二十五条第一項第二号の処分に違反して業務を行つた者は、六箇月以下の懲役又は二万円以下の罰金に処する。

第28条 第十七条第二項の規定に違反した者は、五千円以下の罰金に処する。

3 報酬の設定・公示義務

海事代理士は,業務の開始前に報酬額を設定し,公示しておかなければなりません(22条1項)。また,報酬額の設定にあたっては,適正な利潤を含み,かつ差別的な取扱をしないものでなければなりません(同条2項)。

ダンピングが行われている場合等を想定しているのだと思いますが,この報酬額が規定に適合しない場合,他の海事代理士等の利害関係人は地方運輸局長あてに申出て,変更を命ずべきことを求めることもできます(同条3項)。なかなか強烈な制度ですね。

そして,公示した報酬額を下回った額や,上回る額で報酬を受けることが禁止されています(24条)。依頼者の利益になるのでいいのではないかと思うかもしれませんが,下回る額も禁止されていますので注意です。

(報酬)
第22条 海事代理士は、その業務の開始前に、委託者から受けようとする報酬の額を定め、これをその事務所において公衆に見やすいように掲示しなければならない。これを変更するときも同様とする。
2 前項の報酬の額は、適正な原価を償い、且つ、適正な利潤を含むものでなければならず、また、特定の者に対し、差別的な取扱をするものであつてはならない。
3 委託者、他の海事代理士その他の利害関係人は、第一項の報酬の額が前項の規定に適合しないと認めるときは、その理由を具して地方運輸局長に申し出て、報酬の額の変更を海事代理士に命ずべきことを求めることができる。
4 地方運輸局長は、第一項の報酬の額が第二項の規定に適合しないと認めるとき、又は前項の請求に理由があると認めるときは、海事代理士に対し、報酬の額を変更すべきことを命ずることができる。
5 地方運輸局長は、前項の規定による命令をしようとするときは、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第十三条第一項の規定による意見陳述のための手続の区分にかかわらず、聴聞を行わなければならない。
6 前項の聴聞の期日における審理は、公開により行わなければならない。
7 第三項から前項までの規定は、海事代理士の受けようとする報酬の額が、事情の著しい変更により第二項の規定に適合しないものとなつた場合に準用する。

第24条 海事代理士は、第二十二条第一項の規定により掲示した報酬の額よりも高額又は低額の報酬を受けてはならない。

4 その他の義務

海事代理士は,誠実かつ敏速に,しかもみずから事務を処理しなければなりません(誠実義務,18条)。ただし,他の海事代理士や,事務補助者についてはこの限りではありません(海事代理士法施行規則14条ただし書き)

また,秘密保持義務(19条)や印章の使用制限(20条),帳簿の整備・保存義務(21条),報告義務(26条2項)が課されています。秘密保持義務と報告義務については,罰則があります(29条・30条)。

※虚偽の報告をしても,罰金5000円って安くないですか・・・

さらに,海事代理士法施行規則では,事務所の表札には海事代理士の事務所である旨の表示義務が課されています(海事代理士法施行規則15条1項)。

(誠実等の義務)
第18条 海事代理士は、誠実且つ敏速に、みずからその事務を処理しなければならない。
(秘密を守る義務)
第19条 海事代理士は、法律に別段の定がある場合を除く外、その業務上取り扱つた事項について知り得た秘密を他に漏してはならない。海事代理士でなくなつた後も、また同様とする。
(業務に使用する印章)
第20条 海事代理士は、その業務を行うにあたつて印章を使用するときは、第九条第一項の規定により登録をうけた印章によらなければならない。
(帳簿)
第21条 海事代理士は、国土交通省令で定める様式の帳簿を備え、左の事項を記載しなければならない。
一 取り扱つた事項の概要
二 委託者の氏名又は名称及び住所
三 委託者から受けた報酬の額
2 前項の帳簿は、当該帳簿に最終の記載をした日から起算して三年間保存しなければならない。

(報告)
第26条 地方運輸局長は、この法律を実施するため必要があると認めるときは、海事代理士に対し、その業務に関し報告を求めることができる。
2 前項の場合において、地方運輸局長は、当該海事代理士に対して、報告について必要な協力をしなければならない。

第29条 第十九条の規定に違反した者は、六箇月以下の懲役又は五千円以下の罰金に処する。
2 前項の罰は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

第30条 第二十六条第一項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、五千円以下の罰金に処する。

5 違反するとどうなる?海事代理士の懲戒手続

海事代理士が,海事代理士法や同法に基づく処分に違反した場合は,地方運輸局長により処分されることになります(25条1項)。一応聴聞手続等は実施してくれますので(同条2項),言い分がある場合にはここで主張することになります。

ここでなされた処分に違反すると罰則があります(27条)

また,業務停止処分を受けている期間中は,海事代理士事務所である旨の記載のある表札を外さなければなりません(海事代理士法施行規則15条2項)。

(懲戒)
第二十五条 海事代理士が、この法律又はこの法律に基く処分に違反したときは、地方運輸局長は、左に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 一年以内の業務の停止
三 登録のまつ消
2 地方運輸局長は、前項第一号又は第二号に掲げる処分をしようとするときは、行政手続法第十三条第一項の規定による意見陳述のための手続の区分にかかわらず、聴聞を行わなければならない。
3 地方運輸局長は、第一項各号に掲げる処分に係る聴聞を行うに当たつては、その期日の七日前までに、行政手続法第十五条第一項の規定による通知をしなければならない。
4 前項の聴聞の期日における審理は、公開により行わなければならない。

第27条 第十七条第一項の規定に違反した者又は第二十五条第一項第二号の処分に違反して業務を行つた者は、六箇月以下の懲役又は二万円以下の罰金に処する。

(参考 海事代理士法施行規則)

1 できる業務の範囲

なし

2 海事代理士でない者の業務の制限

なし

3 報酬の設定・公示義務

なし

4 その他の義務
(他人に業務を行わせることの禁止)
第14条 海事代理士は、他人をしてその業務を処理させてはならない。但し、他の海事代理士に行わせる場合又は単に事務の補助をさせる場合は、この限りでない。

(表札)
第15条 海事代理士がその事務所に掲出する表札には、海事代理士の事務所である旨を記載するものとする。
2 海事代理士は、法第二十五条第一項の規定による業務の停止の処分をうけたときは、その停止期間中前項の表札を撤去するものとする。

(帳簿)
第十六条 法第二十一条第一項の規定による帳簿は、別記第七号様式の通りとする。
2 前項の様式における受託番号は、毎年更新するものとする。
3 同一事項につき委託者が二人以上あるときは、委託者の欄の記入については、そのうちの一人だけの氏名及び住所並びに他の人数を記載すれば足りる。
4 帳簿には、月及び年ごとに当該月間又は年間に処理した事件の総件数及び報酬の総額を記載するものとする。

5 違反するとどうなる?海事代理士の懲戒手続
(聴聞に関する公示)
第17条 地方運輸局長は、聴聞を行うに当たつては、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第十五条第一項の通知をするほか、同項各号に掲げる事項を地方運輸局等に掲出するものとする。
(関係人の参加許可の手続の特例)
第18条 国土交通省聴聞手続規則(平成十二年総理府・運輸省・建設省令第一号)第四条第一項の規定にかかわらず、行政手続法第十七条第一項の規定による許可の申請については、関係人は、速やかに、その氏名及び住所並びに当該聴聞に係る不利益処分につき利害関係を有することの疎明を記載した書面を主宰者に提出してこれを行うものとする。
(聴聞調書の閲覧の特例)
第19条 地方運輸局長は、行政手続法第二十四条第四項の規定による請求があつたときは、何人にも聴聞調書を閲覧させるものとする。
(補佐人の出頭許可の手続の特例)
第20条 国土交通省聴聞手続規則第七条第一項の規定にかかわらず、行政手続法第二十条第三項の規定による許可の申請については、当事者又は参加人は、速やかに、補佐人の氏名、住所、当事者又は参加人との関係及び補佐する事項を記載した書面を主宰者に提出してこれを行うものとする。ただし、同法第二十二条第二項(同法第二十五条後段において準用する場合を含む。)の規定により通知された聴聞の期日に出頭させようとする補佐人であつて既に受けた許可に係る事項につき補佐するものについては、この限りでない。