1 基本はすべて

 民法上、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」(民法896条)と規定されていますので、基本的に、すべての権利義務を承継することになります。

2 例外「一身に専属したもの」

 しかし、但し書きからあきらかなとおり、「被相続人の一身に専属したもの」については承継されません。

条文上認められているもの

 この承継されない権利義務について、例によってe−Govちゃんで検索をかけたところ、
 ①代理権(111条1項1号) 本人・代理人いずれか死亡で消滅
 ②使用貸借権(599条) 借主死亡で消滅
 ③定期贈与(552条) 贈与者・受贈者いずれか死亡で消滅
 ④委任契約(653条1号)委任者・受任者いずれか死亡で終了
 ⑤組合員の地位(679条1号)組合員の死亡により脱退
の5つがあがってきました。

判例上認められているもの

 また、判例上も、労働契約の身元保証や根保証のような権利については、「被相続人の一身に専属したもの」として相続が否定されています。

コラム:法学部1年生の頭をマヒさせる「無権代理」と「相続」

 これだけだとあまりに短いので、すこし相続に関連するコラムを。

 法学部1年生が出鼻をくじかれる民法総則の論点の1つが、「無権代理人たる地位の相続」に関する論点ではないでしょうか。
 その理由は、契約の成立要件もよくわかっていないうちから、「代理」・「相続」という応用が入るというという込み入った状態で、①本人が無権代理人を相続するパターンと、②無権代理人が本人を相続するパターンを明確に区別して検討しなければならないためです。

 1で述べたとおり、相続人は、被相続人の一身に専属したものを除き、すべての権利義務を承継します。そして、この「権利義務」の中には、「無権代理人」「善意」といった財産法上の地位も含まれます。なので、本人が「無権代理人の地位」を承継する場合もありえますし、無権代理人が「本人の地位」を承継する場合もありえるのです。

 基本の契約形態がわかっていて、代理の場合の処理がわかったうえで、相続の内容がわかっていれば、上記論点についてはすんなり理解できるはずなのですが、どうしても理解ができないので暗記に走ってしまう結果、「法律科目は暗記ゲー」などと言われる事態に陥ってしまうのです。

 個人的には、とりあえず典型契約から条文で解決していくというのを体験してもらって、それから代理・詐欺・錯誤などの例外的な場合について検討、最後に多数の分野にまたがる問題に取り組むという流れで入っていったほうが暗記科目にならなくていいのになと思っています。

 最後の方はほとんど関係ない記事になってしまいましたが・・・まあいいですよね。