1 はじめに
新型コロナウイルス感染症の感染拡大によってオンラインサービスの需要が拡大していることにともない,利用規約に関するご相談が増えてきていますので,利用規約に関するあれこれをまとめてみました。
2 利用規約の法律上の位置づけ
そもそも「利用規約」という単語は法令上定められたものではありません(e-Gov法令検索で検索していただくと,1件もひっかからないことがご確認いただけます。)。では,利用規約とはなんなのかというと,契約の一方当事者が作成した定型的な契約条項,すなわち「約款」にあたります。
約款については,従来,包括的な規制法がなかったのですが,2020年4月から施行された民法改正により定型約款に関する規定(548条の2ないし4)が新設されることとなりました。
新設規定においては,定型約款を「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう」(548条の2第1項柱書)と定義していますが,利用規約は,一般的にポエムではなく,その内容を契約の内容とする目的をもって作成されるものですから,そのほとんどが定型約款に該当するものと思われます。
3 利用規約に効力を持たせるためには?
もっとも,定型約款は「定型取引において,契約の内容とすることを目的」とする必要があり,また,548条の2第1項によれば,定型約款の個別の条項についても合意したものとみなされる(契約の内容とする)ためには,まず「定型取引を行うこと」について合意してもらう必要があります。
つまり,利用規約に効力をもたせるためには,そもそもの取引が定型取引である必要があるということです。
民法548条の2第1項
定型取引(略)を行うことの合意(略)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(略)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
二 定型約款を準備した者(略)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
4 では,定型取引とは?
では,定型約款が使える「定型取引」とはどういうものをさすのかというと,「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって,その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」とされています(548条の2第1項柱書)。
①「不特定多数の者を相手方として行う取引」であることについては,「相手方の個性に着目した取引は含まれませんよ」というもので,労働契約のように相手方の個性に着目して締結されるような契約(だれが労働を提供してくれるかは重要ですよね?)については,定型取引にあたらないと考えられています。したがって,ひな形や労働利用規約とかを作ってみても「定型取引において契約の内容とすることを目的」としたものとならないため,定型約款たり得ません。
②「その(取引の)内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」であることについては,「交渉がありうる取引は含まれませんよ」というもので,イメージとしては電車やバスに乗るときのように,業者側も利用者側もいちいち交渉しなくていいことがメリットとなるような取引でないといけないということです。・・・電車やバスに乗るときにいちいち条件交渉しないといけないと大変ですよね?
ここで注意が必要なのは,事業者間取引については,その多くが相手方の個性に着目したものであり,また,取引を画一的に行うことが相手方にとっても合理的であるとは必ずしもいえないと考えられているということです。
したがって,事業者間の取引については,ほとんど定型取引として認められない可能性があるため,定型約款の利用については慎重に検討する必要があります。
5 まずはビジネスを図に落としてみよう
では,利用規約が使える取引かどうかについてはどのように考えたらいいのでしょうか。
個人的には,ビジネスを図に落としてみるのが有効であると考えています。といっても,ビジネスモデルキャンパスぐらいまでがっつり作成しろというわけでなく,①だれに,②なにを,③どのように提供するのか?という基本的なことを図で整理すれば十分です。
図ができたら,「①だれに」の部分に入る人が変わっても②や③が変わったりしないかを検討してみましょう。労働契約のように,取引の相手がだれかによって条件が変わる・あるいは変えたいのであれば,定型取引でない可能性が高いので,個別の契約書を作成したほうがいいかもしれません。