控訴は、判決書等の送達を受けた日から二週間の不変期間内に提起しなければならないとされているため(民事訴訟法285条)、控訴状に第一審判決の取消し等を求める具体的な理由を記載することが困難な場合があります。このような場合には、とりあえず控訴状を提出し、控訴提起後50日以内にこれらの理由を記載した書面である控訴理由書(※1)を提出しなければなりません(民事訴訟規則182条)。

 似たような制度である上告の場合は、期間内に上告理由書(上告受理申立て理由書)を提出しないと決定で上告が却下されてしまいますが(民事訴訟法316条1項2号、315条1項)、控訴の場合にはこれらのような規定がないため、期限内に控訴理由書が提出されなかったからといって、直ちに控訴が却下されるというわけではありません。
 しかし、攻撃防御方法の提出時期(156条)や、時機に後れた攻撃防御方法の却下等(157条)の規定は、控訴審においても準用されています(297条)。そのため、控訴理由書の提出があまりに遅れてしまうと、控訴自体は却下されなくとも、新たな主張や証拠の申出が時機に後れた攻撃防御方法として却下されてしまい、結果として控訴を却下されたのと同様の効果が生じてしまう可能性があります。

 もう少しくわしくいうと、訴訟の勝敗に影響を及ぼしうる新たな主張や証拠申請を攻撃防御方法(※2)というのですが、現在の民事訴訟では、いつでも攻撃防御方法を追加できるわけではなく、適切な時期までに提出しなければならないこととされており(適時提出主義)、適切な時期を過ぎた後に提出された主張や証拠の申出については、場合により却下されることがあります(時機に後れた攻撃防御方法の却下)。

 これは控訴審でも同様なのですが、時機に後れたかどうかは控訴審のみを基準とするのではなく、第一審・控訴審を通じて判断されることとされているため(最判昭和30年4月5日民集9巻4号439頁)、控訴審の第1回口頭弁論期日においてされた新たな主張や証拠の提出であっても、裁判所は時機に後れたものとして却下することが可能です(東京高判平成16年7月14日判時1875号52頁)。控訴審が1回目だからといって、必ず新たな主張や証拠が出せるというわけではないということですね。

 そして、一応、控訴審は続審とされているのですが、実際は事後審的な運用がなされており、ほとんどの事件が1回目の口頭弁論期日で弁論終結とされています。このような運用の是非はさておき、実際上、時機後れとして却下した場合の予想訴訟完結時期は1回ということになりますので、新たな主張をしたい場合は、多少遅れてでも極力すみやかに控訴理由書を提出しないと、被控訴人側の認否のために続行期日を指定しなければならない=「攻撃防御方法を提出したために訴訟の完結が遅延する」状態になってしまいます。このような場合、ほとんどのケースで当事者又は訴訟代理人に時機に後れて提出することについての故意(重過失)が認められるでしょうから、却下の要件をみたしてしまいます。

 控訴理由書に記載した攻撃防御方法が却下されてしまった場合、新たな主張や証拠がないわけですから、よっぽどひどい原判決でないかぎり、控訴棄却・原審維持となってしまうと考えられますので、実質的には控訴の却下と同じになってしまいます。せっかく1.5倍の手数料(印紙代)を払って控訴するのですから、控訴理由書はきちんと期限を守って(少し遅れても、極力すみやかに)提出しましょう。

 一方、いつまでたっても控訴理由書が出てこない場合の被控訴人側の対応ですが、控訴答弁書(※3)が「控訴人が主張する第一審判決の取消し又は変更を求める事由に対する被控訴人の主張を記載した書面」である以上、控訴理由が明示されないと書きようがないことになります。
 そのため、控訴理由書において第一審判決が取り消されるべき(変更されるべき)理由が具体的に主張されていない場合と同様に、原判決の妥当性を示したうえで、期限を徒過して提出された控訴理由書記載の攻撃防御方法については、時機に後れた攻撃防御方法であるため却下を求める旨(※4)記載した控訴答弁書を提出し、その後は裁判所の訴訟指揮に従って対応するほかないように思います。

※1 民事訴訟規則182条の見出しでは「第一審判決の取消し事由等を記載した書面」となっていますが、実務上はこれを「控訴理由書」というタイトルで提出しています。
※2 民訴法156条等にいう「「攻撃又は防御の方法」とは、当事者がその判決事項に係る申立て(略)が正当であることを支持し、基礎付けるために提出する一切の訴訟資料であって、主張(事実事情の主張・法律上の主張)、立証(証拠申出)および証拠抗弁などを含む。原告の申立てを支持するためのものを攻撃方法、被告の申立てを支持するためのものを防御方法という。」(伊藤眞ほか『コンメンタール民事訴訟法Ⅲ』328頁)。
※3 民事訴訟規則183条の見出しでは、「反論書」となっていますが、実務上は「控訴答弁書」というタイトルで提出しています。
※4 時機に後れた攻撃防御方法として却下を求める場合の要件事実は、①時機に後れて提出された攻撃防御方法であること、②提出懈怠に対する当事者又は代理人の故意(又は重過失)、③(予想訴訟完結時期と比較して)当該攻撃防御方法の審理をすると訴訟の完結が遅延すること、④却下の相当性とされている(岡口基一 『要件事実マニュアル 第6版 総論・民法1』136~138頁参照)。