1 よって書きとは
いわゆる「よって書き」とは,請求原因の記載の最後にある,「よって,」から始まる記載部分のことを言います。
民事訴訟規則53条では,「訴状には、請求の趣旨及び請求の原因(請求を特定するのに必要な事実をいう。)を記載するほか、請求を理由づける事実を具体的に記載し、かつ、立証を要する事由ごとに、当該事実に関連する事実で重要なもの及び証拠を記載しなければならない。」とされています。
この「請求」とは,訴訟物(訴訟上の請求)を指し, 処分権主義(民事訴訟法246条ほか) のもとでは,裁判所は,この訴訟物についてのみ審理し,請求の内容や範囲を超えて裁判をすることができません。
そして,裁判実務で採用されている旧訴訟物理論によれば,訴訟物=実体法上の請求権(権利)ですので,訴状では,どういう権利に基づいて請求をしているのかを明らかにしなければなりません。
これを踏まえて,実務上は,「よって書き」において,当事者や訴訟物等についてをまとめて記載し,請求の趣旨と請求の原因の関係を示すということが行われています。
2 ちゃんとしたよって書きの必要性
長崎に来てからは,被告側の事件を担当することが多いのですが,たまにこのよって書きが適当な訴状が出てくることがあります。
他の記載で訴訟物が特定されていればまだいいのですが,全く記載がなく,求釈明をしたところ,「あえて言えば・・・●ですかね」みたいな答えが帰ってきたこともありました(注:相手方は長崎の弁護士ではありません。念のため。)。
上で書いたとおり,訴訟物は,訴状に記載しなければならない事項ですので,訴訟物が不明の事件は,ほとんど訴状審査の段階で補正がなされます。
・・・が,ある程度特定できていれば(被告側からすると特定できていないレベルでも),訴訟が開始されてしまうことがあります。
ただ,訴訟物が不明のまま訴訟が開始しても,どの条文を根拠に請求されているかわからないので,被告側としてはとても対応がしにくいんですよね。で,やむなく求釈明をしていると1期日(だいたい1ヶ月)を無駄にするので,だれも得しません。ちゃんとよって書きましょう。
3 では,どういうことを書けばいいの?
必要な記載事項
通常,よって書きには,当事者や,訴訟物,訴訟物が複数の場合は,その関係性,一部請求かどうか,附帯請求の内容,附帯請求の起算日,遅延損害金等の利率とその理由を記載する必要があります。
だめな例
「よって,請求の趣旨記載の判決を求める。」
というのは基本的にだめです。
原告1人・被告1人 売買契約に基づく代金支払請求権1個(附帯請求なし)の場合の記載例
「よって,原告は,被告に対し,本件売買契約に基づき,代金50万円の支払いを求める」
原告1人・被告1人 売買契約に基づく代金支払請求権1個(附帯請求あり)の場合の記載例
「よって,原告は,被告に対し,本件売買契約に基づき,代金50万円及びこれに対する引渡日である令和元年9月20日から支払い済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める」
原告1人・被告1人 売買契約に基づく代金支払請求権2個(附帯請求なし,単純併合)の場合の記載例
「よって,原告は,被告に対し,本件売買契約1に基づき代金50万円の支払いを求めるとともに,本件売買契約2に基づき代金30万円の支払いを求める」
原告1人・被告1人 不法行為に基づく損害賠償請求権・債務不履行に基づく損害賠償請求権 各1個(附帯請求なし,選択的併合)の場合の記載例
「よって,原告は,被告に対し,不法行為又は債務不履行に基づき,50万円の支払いを求める」
原告1人・被告1人 不法行為に基づく損害賠償請求権・債務不履行に基づく損害賠償請求権 各1個(附帯請求なし,予備的併合)の場合の記載例
「よって,原告は,被告に対し,主位的に,不法行為に基づき50万円の支払いを求め,予備的に,債務不履行に基づき,50万円の支払いを求める。」
原告1人・被告2人 賃貸借契約に基づく賃料請求権・保証契約に基づく保証債務債務履行請求権 各1個(附帯請求なし,単純併合)の場合の記載例
「よって,原告は,被告1に対しては,本件賃貸借契約に基づき,被告2に対しては,本件保証契約に基づき,金48万円の支払いを求める。」
困ったら
よって書きをどう書いていいいか迷ったら,「岡口基一 著 要件事実マニュアル」シリーズや,「岡口基一 著 民事訴訟マニュアル 上」を参照しましょう。だいたいのよって書きの記載例が書いてあるぞ。
R2.12.24追記 債権法改正前の附帯請求の書き方
ちなみに,令和2年4月1日以降に改正前の法定利率(年5分,年5%)が適用される遅延損害金を請求する場合のよって書は,以下のようになります。
「・・・から支払い済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払え」
「・・・から支払い済みまで,民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。)所定の年5分の割合による遅延損害金を支払え」