1 忙しい人のための要約

 売上が下がる要因は,突き詰めると①市場が縮小している,②相対的な競争力が低下している,③市場が縮小して相対的な競争力も低下しているのいずれかであるというお話です。

2 ある製品甲の市場

 甲という製品が,ある価格で100個取引されている市場があるとします。
 この場合,少なくとも,合計100個の「甲を欲しい人たち」と,合計100個の「甲を売りたい人たち」が存在します。

 自社は事業者なので,「甲を売りたい人たち」の中に含まれます。そして,「甲を売りたい人たち」が自社だけであることはまれなので,「甲を売りたい人たち」は,自社とそれ以外に分けられることになります。

 今回のケースでは,自社が甲を20個取引している状態(シェア20%を獲得する相対的競争力がある状態)をスタート地点としましょう。

3 製品甲の市場は売上にどのように影響するか?

 市場が成長する場合,自社の売上にどのような影響を与えるでしょうか?
 一般的には,需要がある状態で,供給量が増えることで市場が成長します。

 今回のケースでいうと,なんらかの影響により,製品甲を欲しい人が10%増加したとすると合計110個の「甲を欲しい人たち」がいることになります。この状態で,製品甲を提供することができれば,合計110個まで取引が成立するようになります。
 そのため,自社が製品甲を提供することができれば売上が増加しますが,提供することができなければ売上は増加しないことになります。

 では,市場が縮小する場合,自社の売上はどうなるでしょうか?
 需要が減少したり,取引量の制限等がなされると取引量が減少し,市場が縮小します。

 今回のケースでいうと,なんらかの影響によって製品甲を欲しい人が10%減少すると,合計90個の「甲を欲しい人たち」しかいなくなることになりますので,いくら製品甲を提供しても,合計90個までの取引しか成立しなくなります。
 この場合,自社と他社の競争力(取引を獲得する能力)が変化しなければ,自社も他社も同じ割合で取引が減少するはずです。そのため,自社も取引量が10%減の18個まで落ち込み,取引によって得られる売上も減少することになります。

 このように,市場が成長することは必ずしも自社の売上の向上につながりませんが,市場が縮小する場合は基本的に自社の売上減少につながります。

4 自社の相対的競争力に変化が生じるとどうなるか?

 次に,自社の相対的競争力に変化が生じた場合について考えてみます。
 なんらかの問題があって自社の競争力が低下したり,企業努力の結果他社の競争力が向上すると,自社の相対的な競争力は低下し,取引量(シェア)が減少してしまいます。ここでは,シェアが10%まで減少したとしましょう。
 その結果,どうなるかというと,全体の取引量が100のままであったとしても,自社が取引できる量が減少し(取引量20→10),取引によって得られる売上も減少します。

 一方で,自社の競争力を高めたり,他社の競争力が低下して自社の相対的競争力が高まった場合は,自社がより多くの取引をすることができるようになります。ここでは,シェアが25%まで上昇したとしましょう。
 この場合,全体の取引量が100のままでも,自社が取引できる量は増加し(取引量20→25),取引によって得られる売上も増加します。

 このように,自社の相対的競争力の向上・低下は,売上高に影響を及ぼします。

5 市場の変化と相対的競争力の変化が同時に起きたら?

 では,これらが同時に起きた場合,売上はどのように変化するでしょうか。
 市場の成長は必ずしも売上高の増加につながりませんので,
① 市場成長,相対的競争力増加 
② 市場成長,相対的競争力不変 
③ 市場成長,相対的競争力低下
の3つの組み合わせについてはおいておきましょう。

 市場が不変の場合については,4でみたとおりです。
④市場不変,相対的競争力向上 → 売上増加
⑤市場不変,相対的競争力不変 → 売上不変
市場不変,相対的競争力減少 → 売上低下

 次に,市場が縮小する場合ですが,
⑦市場縮小,相対的競争力向上 
の場合については,市場成長率と相対的競争力のどちらが大きいかによって結論が変わってきます。
 たとえば,
a:市場10%減少,相対的競争力5%向上 → 全体の取引量90個,獲得取引量は22個(端数切捨)となり,売上が増加します。
b:市場20%減少,相対的競争力5%向上 → 全体の取引量が80個,獲得取引量20個
となり,売上は不変。
c:市場10%減少,相対的な競争力10%向上 → 全体の取引量90個,獲得取引量30個
となり,売上増加
d:市場20%減少,相対的競争力10%向上 → 全体の取引量80個,獲得取引量24個
となり,売上増加

市場縮小,相対的競争力維持 → 売上低下
 これは,3でみたとおりですね。

市場縮小,相対的競争力低下
 この場合,全体の取引量が減少し,その中で自社が獲得できる取引量も減少するので,売上は低下することとなります。
 例えば,市場が10%減少し,相対的競争力が10%まで減少した場合,全体の取引量は90個,獲得取引量は9個まで落ち込みます。

6 まとめ

 このように,市場が縮小している場合(⑧),相対的競争力が低下している場合(⑥),市場縮小と相対的競争力が低下している場合(⑨)は,自社の売上が低下することとなります。

 売上低下の原因を考察する際の参考とされてください。