1 原則は?
和解調書等の効力について定めた民事訴訟法267条は,「和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。」と定めるだけで,その方法については規定していません。
しかし,264条が「当事者が遠隔の地に居住していることその他の事由により出頭することが困難であると認められる場合において、・・・当事者間に和解が調ったものとみなす。」としていることからすれば,基本的に「当事者双方が出頭していること」が前提とされているようです。
当事者の片方又は双方が出頭できない場合の方法としては,いわゆる受諾和解・裁定和解という制度が用意されています。
2 受諾和解は書面が必要
しかし,いわゆる受諾和解をするためには,
・当事者が遠隔の地に居住していることその他の事由により出頭することが困難であると認められる場合であること
・その当事者(出頭が困難な当事者)があらかじめ裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官から提示された和解条項案を受諾する旨の書面を提出していること
・他の当事者が口頭弁論等の期日に出頭してその和解条項案を受諾したこと
が必要です(264条)。
でも,電話会議等を使って和解を成立させる場合,事前に受諾書面の提出を求められたりしませんよね?
3 裁定和解も書面が必要
では,いわゆる裁定和解(265条)なのかというところですが,裁定和解をする場合も,
・当事者の共同の申立てが書面でなされ(1項・2項),
・かつ,和解条項の定めが,口頭弁論等の期日における告知その他相当と認める方法による告知されること(3項・5項)
が必要ですので,書面を提出していないと使えなさそうです。
4 じゃあ,書面の提出なしで成立しているあの和解は?
じゃあ書面の提出なしでやっているあの和解はなんなのかというと,もうおわかりですね。普通の和解です。
当事者の片方が出頭していないのに「当事者双方が出頭していること」が前提の普通の和解ができるのは,170条4項によるものです。
具体的には,弁論準備手続について規定している民事訴訟法170条3項は,「裁判所は、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、弁論準備手続の期日における手続を行うことができる。ただし、当事者の一方がその期日に出頭した場合に限る。」として,電話会議システムを利用した弁論準備手続を認めていますが,同条4項は,「前項の期日に出頭しないで同項の手続に関与した当事者は、その期日に出頭したものとみなす。」としているのです。
つまり,弁論準備手続期日に付して,片方が出頭できれば,もう片方の当事者については170条4項で出頭したものとみなして普通の和解ができるのです。
そして,最近はじまったウェブ会議も,「裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法」として扱われているので(?),当事者の一方さえ出席していれば,書面の提出を求めることなく和解を成立させることができるわけです。
6 当事者の双方が出席しない場合は?
なお,ウェブ会議等によって当事者が双方とも出頭していない場合の期日は,おそらく「書面による準備期日」(175条)となっているので,前述のような方法で普通の和解を成立させることも,受諾和解もすることができません。
この場合は,当事者双方から書面で申出をさせて裁定和解をするしかないものと思われます。
7 まとめ
ということで,「和解のときは裁判所に行かなければならないのか?」という問いに対する答えは以下のようになります。
・原則として当事者双方が裁判所に行かないと(出頭しないと)いけない。
しかし,以下の場合には片方又は双方が出頭しなくてもよい。
・例外1 受諾和解が可能な場合 片方の出頭でOK
・例外2 裁定和解が可能な場合 誰も出頭しなくてもOK
・例外3 電話会議システムを利用した弁論準備手続に片方が出頭可能な場合 片方の出頭でOK
※家事事件については,家事事件手続法によって和解を成立させられる場合が制限されているのでご注意ください。