1 はじめに
9月10日に司法試験の合格発表があったというニュースを見て, 「そろそろ地獄の2回試験だな」 とか,「そういえば修習生のとき,最終準備書面の起案,なんとなく書いていたな」とか思いましたので,最終準備書面についてまとめてみました。脈絡なくて申し訳ない。
2 そもそも最終準備書面ってなんなんだ?
民事訴訟法には根拠がない。
一応調べてみましたが,やはり民事訴訟法には,「最終準備書面」という用語はでてきませんでした。「準備書面」なら,161条とか162条に出てくるんですけどね。もちろん,民事訴訟規則にも出てこないよ。
では,書籍では?
というわけで,次に書籍を調べまくります。
①「法律文書作成の基本」 田中豊 著 196頁
最終準備書面とは,「民事訴訟の各審級の最終段階において提出される準備書面」をいう
②「クロスレファレンス民事実務講義」 京野哲也 著 239頁
「いわゆる「最終準備書面」は,訴訟の最終段階において,一方当事者の請求(法的主張,すなわち訴訟物たる権利の存否)の正当性を,また,相手方の請求に理由がないことをそれぞれの立場において,総力をあげて論証し,裁判官を説得することを目的とするものである。」
③「若手弁護士のための民事裁判実務の留意点」 圓道至剛 著 213頁
「最終準備書面は、通常の準備書面とは異なり、すでに主張した事実等と証拠とを結びつけて裁判所を説得するための書面です。」
④「民事弁護の起案技術」 民事弁護実務研究会 著 75頁 NEW!
「最終準備書面は,準備書面の一種であるが,訴訟の最終段階において,一方当事者の法的主張(訴訟物たる権利の存否)の正当性を論証し,裁判所を説得することを目的とするものである。」
結局のところ
書籍を調べてみてわかったことは,「各審級(訴訟)の最終段階において提出される準備書面」が最終準備書面だということです。名前のまんまやないか。
3 では,なにをどう書いたらいいのか?
書籍の記載
というわけで,定義からは何をどう書いたらいいかわかりませんでしたので,もう少しどういったことを書いたらいいのかというところ調べてみましょう。
①「法律文書作成の基本」 田中豊 著 196頁
「最終準備書面は,第一審又は控訴審の最終口頭弁論期日における各当事者の主張と証拠を整理して提示することによって,裁判所の判断に遺漏なきを期すばかりでなく,自らの主張に法律上の根拠があり,事実上の争点について自らの主張に沿った認定をすべきであることを説得することを目的とするものです。」
②「クロスレファレンス民事実務講義」 京野哲也 著 239頁
「請求に理由があることを論証する最終準備書面は,(被告でも抗弁の論証が必要な場合は同様に),①権利の発生,障害,消滅,阻止に関する法律要件を示し,②証拠に基づいて当該法律要件が充足されるか否かを論証するものである。また,相手方の請求に理由がないことを論証する場合には,これらが充足されないことを論証する。」
③「若手弁護士のための民事裁判実務の留意点」 圓道至剛 著 213頁
「①やむを得ない場合を除いては,新しい主張をしないこと,②証拠や供述を具体的に指摘して、要証事実(を含む自分の側のストーリー)を論証していくことが大切です」「最終準備書面においては,相手の主張に対する反論も必要に応じて行いますが,相手方の主張する事実・ストーリーと自分の側の主張する事実・ストーリーが択一関係にない限りは,相手方の主張を潰しても直ちに自分の側の主張の正しさが裏付けられるわけではないので,まずは自分の側の主張する事実・ストーリーの正しさを積極的に論証すべきことに留意する必要があります。
④「裁判官!当職そこが知りたかったのです」 中村真 岡口基一 著94頁
「主張をまとめる系の書面はあまり要らない」「新しい主張が入ってはいけない」「反対の間接証拠をつぶすところで延々と悩んで,2~3日かかっている。」「最終準備書面に相手の反対証拠のつぶし方を全部書いてきてくれると,本当にありがたい。」「記録に出てこない周辺事情も知っている代理人ならではの証拠の評価も書いてくれると,反対証拠を非常に説得的な理由で全部つぶせる。そういう最終準備書面は一番ありがた」い。「多数の間接事実の1つひとつをつぶしていくというのが重要なんですかね。」
⑤「民事弁護の起案技術」 民事弁護実務研究会 著 75頁 NEW!
「①訴訟物たる権利の発生,障害,消滅,阻止に関する法律要件を示し,②人証を含めたすべての証拠に基づいて争いのある事実に関する自らの主張の正当性と相手方の主張に争いがないことを論じ,③これにより当該法律要件が充足されたことを論証し,もって,④裁判所に対する最後の説得を試みるものでなければならない。」
「裁判官がそのまま引用したくなるような,完成された事実認定と法令適用を構築して主張するというスタンスで起案するよう心がけるべきである。」
結局のところ
これらの記載からすれば,
①まず原被告共通のルールとして,「新しい主張をしない」。
→ というわけで,起案であれば勝手に新しい主張を付け加えないこと。
②原告側あるいは,被告側で抗弁を主張する場合には,その法律要件(主要事
実?)を整理すること
→ これについては,立場を問わず,整理した方が書きやすくなるような気が
します。主だったところの要件事実は大丈夫かな?
③具体的な証拠に基づき,要証事実(主要事実)を含む自分の側のストーリー
を論証する
→ ここが核心部分。整理した法律要件が充足されること,あるいは充足され
ないことを具体的な証拠に基づいて記載します。「弁論の全趣旨によれば
●●という事実が認められる」とかは本当に時間や証拠がないときの最終手
段です。簡裁の判決によく書いてあるような気がしないでもないですが。
④できれば相手方の主張に対する反論(反対の間接証拠のつぶし方等)を書く
→ 書いてあるとありがたいという記載がありましたので,できれば相手方証
拠のつぶし方まで記載できるといいのでしょうね。
⑤裁判官がそのまま引用したくなるようなものを起案する。
4 まとめ
・ 最終準備書面とは,その訴訟の最後で出す準備書面のこと。
・ 最終準備書面では,新しい主張を付け加えないように注意しながら,法律要
件を整理し,それらが充足されること(あるいは充足されないこと)を,具体
的な証拠に基づいて論証せよ。
・ できれば相手方の証拠のつぶし方についても書いてあげよう。
(蛇足)タイトル問題
書面に「最終準備書面」というタイトルをつけるかという問題については,上記書籍の間で意見が食い違っていました。時間があればこのテーマについても書いてみたいと思います。
なお,「民事弁護の起案技術」 民事弁護実務研究会 著 75頁では,「控訴審などにおいて,その後にさらに準備書面が提出されることもありうるため,最終準備書面のタイトルは,通常の準備書面と同様に,「第●準備書面」,「準備書面(●)」等と記載し,「最終」という文言を付さないのが通例である」と記載されています。