なぜ法律事務所は着手金・報酬金制を採用しているのか?

調査のきっかけ

 法律事務所では,一般的に,着手金・報酬金制度が採用されています。

 ご多分に漏れず,私も基本的に着手金・報酬金制で依頼を受けているのですが,ふと

 

       「どうしてこういう仕組みになっているのだろう」

 

 と思いましたので,調査してみました。

 

日弁連のサイトを見ても

 ・・・が,意外と理由が書かれているものってないんですね。

 

 総本山(日弁連)のサイトにも,「着手金は弁護士に事件を依頼した段階で支払うもので、事件の結果に関係なく、つまり不成功に終わっても返還されません。着手金はつぎに説明する報酬金の内金でもいわゆる手付でもありませんので注意してください。」とか,「報酬金というのは事件が成功に終わった場合、事件終了の段階で支払うものです。成功というのは一部成功の場合も含まれ、その度合いに応じて支払いますが、まったく不成功(裁判でいえば全面敗訴)の場合は支払う必要はありません。」としか書いてありませんでした・・・

制度設計を考える

 というわけで,どうしてこういう仕組みになっているのか考えてみました。

 ※あくまで私が考えた内容なので,あってるかどうかは保証できませんのでそこのところはよろしくお願いします。

制度設計の一般論

 経営関係の書籍によれば,一般的に,報酬制度の設計にあたっては,お金を払う人と,貰う人の利益が一致することが大切なようです。

 

 そこで,まず,着手金・報酬金という制度を採用すると,どのようなインセンティブが働くのかについて検討すると,

 着手金のように,かかった時間にかかわらず一定額を支払うという制度にした場合,雇われた側は,早くその仕事を終わらせれば,より短時間で同じ報酬が得られることから,仕事を早く終わらせることについてインセンティブが働くようになります。

 次に,報酬金のように,成果に応じて報酬を支払うという制度にした場合,雇われた側は,よりよい結果を出せば,より多くの報酬が得られることになるため,良い結果を出すことについてインセンティブが働くようになります。
 また,同じ結果が早く出せるのであれば,より短時間で同じ報酬が得られることになるため,仕事を早く終わらせることについてもインセンティブが働くことになります。

 弁護士に依頼をする依頼者としては,自分の困りごとを,「より早く」「より有利に」解決してほしいですよね。
 そうすると、この着手金・報酬金制度は依頼者側と弁護士側の利益をある程度一致させている制度であるということができそうです。

完全成功報酬制は?

 しかし,先ほどの検討によれば、報酬金制度があれば「より早く」「より有利に」解決するという部分についてはインセンティブが働くことになります。

 そうすると、別に報酬金制度だけでいいような気もしますが,完全成果報酬制にした場合には,結果に対してしか報酬が発生しないため,「高確率で結果が出るであろう」仕事しか受けてもらえなくなる可能性があります。
 また,報酬が発生しない仕事も発生してしまうことから,その分のリスクを発生する仕事の報酬金に織り込んでおく必要が出てきます。そうすると,報酬金の高額化につながっていきます。

 こうなると、「見通しが不明な事件については受けられないし、報酬もかなりもらわないといけない」という弊害が生じてしまいます。

完全着手金制は?

 完全成功報酬制とは逆に,着手金のみ、という制度にするとどうでしょう。

 完全着手金制にした場合、先ほど検討したとおり、とにかく事件を早く終了させるという方向にしかインセンティブが働かず、 「より有利に解決してほしい」という部分についてはインセンティブが働かないので、結果はどうあれとにあとにとにかく早く終わらせたがるようになるはずです。

 そうすると、「内容や見通しはともかく、とりあえず受けてどんどん終わらせる」という方向になり、形だけの濫訴が発生したり、不利な和解などを強制されたりするような弊害が発生しそうな感じです。

結局のところ

 このように考えていくと、結局現在の着手金+報酬金という制度が一番弊害なく依頼者と弁護士の利益を一致させる制度のようです。

 一応、旧報酬基準が廃止された後は、各法律事務所ごとに報酬基準を定めていいということになっており、過払いや後遺障害等級が取れた交通事故事件のように、ほぼ確実に結果が見込める事件については完全成果報酬制を採用している事務所も増えていますし、だれがやっても結果が変わらないような簡単な申立などであれば、完全着手金制も採用されています。
 ですが、現在の着手金+報酬金制度を超えて依頼者と弁護士の利益を一致させる仕組みが発見されないかぎり、基本的な弁護士報酬制度はかわらないんじゃないかなと思います。

応用:弁護士が弁護士を雇うとき

 このように考えると、弁護士が弁護士(いわゆるイソ弁・アソシエイト)を雇う場合も、事務所(いわゆるボス弁)と雇われ弁護士の利益を一致させるためには、一定の固定給与(着手金)+事務所に与えた利益の割合に応じた給与(報酬金)みたいな制度にするのが一番いいのでしょうね。
 固定給のみだととにかく事件をさばくのが一番になってしまいますし、歩合のみにすると利益にならない事件や仕事はまったくやらなくなるでしょうから。

 ただ、これでも後輩の育成や広報・管理活動のような数字にしにくい要素をどう評価していくかという問題が生じてしまうんですよね・・・報酬制度の設計はむずかしいものです。

以上

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