1 朝三暮四の思い出

 学生だったころ,朝三暮四という四字熟語のもととなった話を聞いた。たしか,サルにエサ的なものを「朝3つ,夜に4つやろう」と言ったところ,サルが怒りだしたので,「では,朝4つ,夜に3つやろう」といったらサルは喜んだ,という話だ(数は逆だったかもしれない。あしからず。)。

 その授業では,この寓話が紹介されたうえで,朝三暮四という四字熟語は,現代では,「結局同じ結果になる」「言葉だけでだましにきている」的な使い方をされているという説明を受け,当時は「やっぱりサルはあほだなあ」くらいにしか思わなかった。

2 サルの頭の中を考える

 なんとなく,合計7個もらえるのはかわらないのだから,サルはだまされているような感じがする。しかし,相手は言葉も理解できるサルである。実は,その背後には隠れた考えがあったのかもしれない,とふと考えた。

 たとえば,サルとしては,「朝に多めにもらえれば,腹一杯の状態で日中エサを探しに行けるが,夜に多めにもらってもただ寝ることしかできない」と考えていたとしたらどうだろう。 あるいは,「夜は寝るだけだから,朝多めにもらえて日中に腹が空いていない方がいい」とか,「いつエサをくれる人がいなくなるかわからないから,早いうちに多くもらえていた方が良い」と考えたのかもしれない。

 どうだろう。なんだかサルが朝多めにもらえるよう交渉したのも合理的な気がしてこないだろうか。 

3 話の主は交渉の達人?

 このように,サルがどのような考えを持っていたのかはわからないが,話の主は,このようなサルの頭の中を理解して,「1日に合計7個のエサ的なものをあげる」という内容を変更しないまま,サルを喜ばせることに成功している。

 話の主は,「1日合計7個のエサ的なものあげる」という点を変更していないので,おそらくこの内容でサルと合意を結ぶことが目的だったのだろう。そうすると,主は,目的を達成したうえに相手方を喜ばせるというすばらしい交渉を行ったことになる。

 交渉術の本では,よく相手の「利害」や「認識」が大事であると書かれているが,朝三暮四という熟語は,本来は現在用いられているような意味ではなく,実はこの点を伝えたかったのではないだろうか。