平成26年海事代理士試験 民法の解説

注:執筆当時の法令に基づくものです。法改正の影響については各自ご確認ください。

1.次の文章は、民法の条文である。□に入る適切な語句を解答欄に記入せよ。(5点)


(1) [20]年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。

→ 根拠法令は,民法162条1項。基本は,20年です。さらに,善意無過失がつけば10年でOK(2項)。

(162条) 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2  十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。


(2) 同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、[登記の前後]による。

→ 根拠法令は,民法373条。登記の順に,登記簿の乙区欄(所有権以外の権利が記載されているところ)に記載されます。

(373条) 同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、登記の前後による


(3) [契約]又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。

→ 根拠法令は,民法540条1項。契約するときに,こういうときは解除してもいいよ,というふうに解除権を定めておくことができます。法改正の影響なし。

(540条) 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。
2  前項の意思表示は、撤回することができない。


(4) 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその[代金を支払う]ことを約することによって、その効力を生ずる。

→ 根拠法令は,民法555条。ちなみに,代金額がばっちり決まっていなくても売買契約が成立しているということはありえます(時価でとか,相当額でとか)。

(555条)  売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。


(5) [請負]は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

→ 根拠法令は,民法632条。請負は,「仕事の完成」がキーワードです。

(632条) 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。


2.法令の規定を参照した次のア~オについて、正しい場合は○を、誤っている場合は×を、解答欄に記入せよ。(5点)


ア. 原則として被相続人の子は相続人となるが、被相続人の子が相続の開始以前に死亡したとき、又は相続放棄をしたとき、もしくは廃除によってその相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。

答え : ☓

→ 根拠法令は,民法887条1項・2項。相続放棄がなされている場合は,代襲相続は発生しません。相続人が検討した上で相続放棄がなされているので,その子にまた相続するかどうかの判断をさせる必要はないというふうに覚えてみてはいかがでしょうか。

(887条) 被相続人の子は、相続人となる
 2  被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当(筆者注:欠格事由の条文です)し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3  前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。


イ. 権限の定めのない代理人は、保存行為に加え、代理の目的である物または権利の性質を変えない範囲において、その利用を目的とする行為をする権限を有するが、改良を目的とする行為をする権限までは有していない。

答え : ☓

→ 根拠法令は,民法103条2号。改良を目的とする行為を行うこともできます。被代理人の利益を害することがないからでしょうか。

(103条)権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
一  保存行為
二  代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為


ウ. Aは、所有する土地をBに売却したが、後に当該土地の一部が他人Cに属するものであったことが発覚した。この場合、AがCから当該土地の一部の所有権を取得してBに移転することができないときは、Bはその善意・悪意を問わず、Aに対して不足部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。また、残存する部分のみであればBがこの土地を買い受けなかったときは、Bが善意の場合に限り、契約の解除をすることができる。

答え : ○

→ 根拠法令は,民法563条1項・2項。土地の一部が他人のものであると知っていた人には,解除権を認めてあげる必要がありません。

(563条)売買の目的である権利の一部が他人に属することにより、売主がこれを買主に移転することができないときは、買主は、その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。
 2  前項の場合において、残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったときは、善意の買主は、契約の解除をすることができる。
 3  代金減額の請求又は契約の解除は、善意の買主が損害賠償の請求をすることを妨げない。


エ. 債権の相殺を行うには、自働債権と受働債権の双方が弁済期にある必要があるため、受働債権に期限が付されているときには、いかなる場合であっても受働債権の期限が到来しない限り相殺を行うことはできない。

答え : ☓

→ 根拠法令は,民法505条1項。受働債権に期限が付されている場合については,こちらが期限の利益を持っていますので,これを放棄して相殺を行うことができます。

(505条) 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2  前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。


オ. 他人の物の占有者は、その物に関して債権が生じ、その債権が弁済期にあるときには、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、占有が不法行為によって始まった場合には、この限りではない。

答え : ○

→ 根拠法令は,民法295条。これを留置権といいます。

(295条)  他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
2  前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。

以 上