平成29年海事代理士試験 民法の解説

注:執筆当時の法令に基づくものです。法改正の影響については各自ご確認ください。

1.次の文章は、民法の条文である。【  】に入る適切な語句を解答欄に記入せよ。(5点)

(1)意思表示は、法律行為の要素に【錯誤】があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

 → 根拠法令は,民法95条(総則)
 

第95条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。た
    だし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を
    主張することができない。


(2)二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済 期にあるときは、各債務者は、その対当額について【相殺】によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。

 → 根拠法令は,民法505条1項(債権総論)

第505条 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双
     方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相
     殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこ
     れを許さないときは、この限りでない。
   2  前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しな
     い。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができな
     い。

 ちなみに,ただし書きの「債務の性質がこれを許さないとき」の具体例は,不法行為債務です(民法509条)。

第509条 債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもっ
     て債権者に対抗することができない。


(3)賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な【修繕】をする義務を負う。

 → 根拠法令は,民法606条1項(債権各論)

   これを修繕義務といいます。

第606条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
   2  賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人
     は、これを拒むことができない。


(4)抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の【果実】に及ぶ。

 → 根拠法令は,民法371条(物権)

   抵当不動産から生じる果実の典型例は,賃料です。たとえば、賃貸用のア
  パートを建てるために金銭を貸し付ける際、抵当権を設定しておけば、貸付
  金の返済が滞っても、賃料から回収することができるようになります。

第371条 抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その
     後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。


(5)相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の【一身】に専属したものは、この限りでない。

 → 根拠法令は,民法896条(親族・相続)

   委任契約(民法653条1号)などは,一身専属権として被相続人の死亡
  により終了します。

第896条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。


2.法令の規定を参照した次のア~オについて、正しい場合は○を、誤っている場合は×を、解答欄に記入せよ。(5点)


ア.代理人は、行為能力者であることを要する。

                 答え:☓

→ 根拠法令は,民法102条(総則)。代理人を選ぶ側がよければ,行為能力者である必要はありません。

 (代理人の行為能力)
  第102条 代理人は、行為能力者であることを要しない。


イ.特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。

                 答え: ◯

→ 根拠法令は,民法534条1項(債権総則)。条文そのまま危険負担の問題です。


ウ.確定期限のある債務の履行については、債務者は、その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う。

                 答え: ☓

→ 根拠法令は,民法412条1項(債権総則)。確定期限がある場合は,債務者の認識を問わず,遅滞の責任が生じます。約束したんだから,期限がいつだったか知らないということは通常ありませんよね。

(履行期と履行遅滞)
 第412条 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。


エ . 売主が契約の時においてその売却した権利が自己に属しないことを知らな かった場合において、買主が契約の時においてその買い受けた権利が売 主 に属 しないことを知っていたときは、売主は、買主に対し、単にその売却した権利を 移転することができない旨を通知して、契約の解除をすることができる。

                   答え:◯

→ 根拠法令は,民法562条1項(債権各論)。権利を有しないことを知っていた買主を保護する必要がないことから,損害賠償義務がなくなっています。

第562条 売主が契約の時においてその売却した権利が自己に属しないことを知らなかった場合において、その権利を取得して買主に移転することができないときは、売主は、損害を賠償して、契約の解除をすることができる。

2 前項の場合において、買主が契約の時においてその買い受けた権利が売主に属しないことを知っていたときは、売主は、買主に対し、単にその売却した権利を移転することができない旨を通知して、契約の解除をすることができる。


オ.取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意又 は重 大 な 過失がないときは、 即時にその動産について行使する権利を取得する。

                   答え:☓

→ 根拠法令は,民法192条(物権)。いわゆる即時取得です。本来の所有者(いきなり権利を失ってしまう)との調整のため,過失があれば即時取得ができない仕組みになっています。

(即時取得)
第192条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

(総評)

根拠法令:条文10・その他0

 民法は,条文からしか出題されないという特徴があります。なので、学習は民法条文の暗記ということになるのですが、条文だけでも1044条あります。
 ただ、出題傾向からすると、親族・相続編からの出題が1問程度しかありません。時間対効果を上げるという観点からすれば、親族・相続編を捨てるという選択肢もありかもしれませんね。財産法だけでもまだ724条ありますけど。

 民法は、実務上は非常に使われている法律ですが、こと海事代理士試験に関しては、配点が10点しかありませんので,どれだけ民法に時間をつぎ込んでも10点までしかとれません。
 まずは60%とれるようになることを目標とし、その後は他の科目を優先して攻略した方がいいかとおもいます。