平成30年 海事代理士試験 民法の解説
注:執筆当時の法令に基づくものです。法改正の影響については各自ご確認ください。
1.次の文章は、民法の条文である。【 】に入る適切な語句を解答欄に記入せよ。 (5点)
(1) 占有者は、【所有の意思】をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
根拠法令は、民法186条1項。
借りたなどといった事情がないかぎり、持っている人は所有の意思を持って占有したものと推定されます。
第186条 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占
有をするものと推定する。
2 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その
間継続したものと推定する。
(2) 同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、【登記の前後】による。
根拠法令は、民法373条。
後順位抵当権者になると、全く債権が回収できないこともありますので、抵当権を設定するときは、とにかく早く登記を行う必要があります。
権の順位は、登記の前後による。
(3) 指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に【通知】をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
根拠法令は、民法467条1項
負担を負う人(譲渡人は債権を失う人、債務者は支払う人)からの通知が必要ということです。
なお、通知や承諾については、確定日付のある証書によることとされています(同条2項)ので、内容証明郵便でなされるのが通常です。
をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
債務者以外の第三者に対抗することができない。
(4) 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から【二週間】を経過することによって終了する。
根拠法令は、民法627条1項
労働者側からの解約申し入れ(退職)はこの条文を根拠に行います。
使用者側からの解約申し入れ(解雇)については、労働基準法等により要件が加重されていますので要注意。
解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約
の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
(5) 夫婦の一方が【日常の家事】に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
根拠法令は、民法761条。
日常の家事、つまり、日用品などの購入に関して、「嫁が買ったんだから俺には関係ない」というようなことを言わせないための条文です。
表見代理の問題などでよく出てくるというイメージがあります。
第761条 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、
他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を
負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、こ
の限りでない。
2.法令の規定を参照した次のア~オについて、正しい場合は○を、誤っている場合は×を、解答欄に記入せよ。(5点)
(ア) 相手方と通じてした虚偽の意思表示は無効となり、当該意思表示の無効を善意の第三者に対抗することができる。
答え:☓
根拠条文:民法94条2項
善意の第三者には無効を主張できません。これが通ると、相手方の協
力さえあれば、なんでも契約を無効にすることができるからです。
できない。
(イ) 条件が法律行為の時に既に成就していた場合において、その条件が停止条件であるとき、又は、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無効とする。
答え:☓
根拠条文:民法131条1項
最初に読むと、1項と2項の違いがわかりにくいかもしれませんが、理屈は簡単で、
①停止条件→条件が成立すると契約の効果が発生する
②解除条件→条件が成立すると契約の効果が失われる
なので、すでに条件が成就している場合、停止条件であれば契約の成立と同時に効果が発生し、解除条件であれば契約の成立と同時に契約の効果が失われることになります。
そこで、法は、このような場合、停止条件であれば無条件とし、解除条件であれば無効とすることにしています。
ちなみに、2項の場合(契約時に条件が成就しないことがすでに確定)は、停止条件であれば契約の成立と同時に契約の効果が発生しないことが確定し、解除条件であれば契約の成立と同時に契約の効果が失われることがないことが確定します。
そこで、この場合には、停止条件であれば無効に、解除条件であれば無条件とすることにしています。
(ウ) ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
答え:○
根拠条文:民法715条。
いわゆる使用者責任です。みなさんが海事代理士になった後、人を雇った場合には関係してきます。典型例は、勤務時間中に交通事故を起こした場合です。
任意保険に未加入の場合、やむを得ず運転者・使用者の両方に損害賠償請求をして、持っている方から回収をすることがあります。
(エ) 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
答え:○
根拠条文:民法920条
「無限に」が気になるところですが、ちゃんと条文に書いてあります。
第920条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承
継する。
(オ) 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなくても、第三者に対抗するこ とができる。
答え:☓
根拠条文:民法178条
動産は、不動産と異なり登記制度などが整備されていません。
なので、第三者からすると、その物を持っているかどうか(引き渡しがなされたか)くらいしか物権の譲渡を知るすべがないんですね。
そこで、物権の譲渡については、動産の引き渡しが対抗要件とされています。
に対抗することができない。
所感
根拠法令:条文10・判例0
うち財産法8・家族法2
今年も民法の回答の根拠は条文のみで、判例からの出題はありませんでした。
また、財産法からの出題が多いというのも変更がありません。
学習方針としては、財産法→家族法の順で条文を潰していくのがいいかと思います。
・・・条文が1000条超えに対し、得点はMAX10点なので、あまり費用対効果はよくありませんが。