1 いわゆる単車修正

 交通事故の裁判や交渉では,別冊判タ38号や赤い本等の過失相殺率の認定基準を参考にして過失相殺率が決定されることがほとんどなのですが,単車対四輪車の事故では,四輪車同士の事故の場合と比べて,単車側に有利な過失相殺率の認定基準が定められています。

 いわゆる「単車修正」とよばれるものですが,これが結構単車側に有利なものになっていますので,四輪車側は納得できないということも結構あります。特に,四輪車が二輪車側から突っ込まれたような場合ですね。

 このような場合,この単車修正がなされた基準( 別冊判タ38号309頁以下)によって解決するほかないのでしょうか?

2 単車修正の根拠は?

 なぜこの単車修正が行われているのか,その根拠を調べてみたところ,優者の危険負担の一内容としての車種修正と単車が被害者であることから過失割合を低く抑えたこと(いわゆる被害者修正)の両者をミックスした概念であるという記述がありました(森冨義明 村主隆行 編著 交通関係訴訟の実務301頁~302頁)。

※ちなみに,優者の危険負担とは,破壊力のより大きい車両を運転する者は,ひとたび事故となれば大きな結果を発生させるからそれだけ運転上の注意義務が加重されてよいという考え方(同書 301頁)です。

 つまり,より危険なことをしているということと,二輪車と自動車が衝突した場合,通常は二輪車側の方が被害を受けるということという2点を理由に,過失相殺率が通常よりも単車側有利に修正されているということですね。

3 人身事故の場合

 人身事故の場合,上記単車修正の根拠がもろに妥当しますので,別冊判タ38号309頁以下の「単車と四輪車との事故」の基準で過失相殺率が認定される可能性が非常に高くなります。

 この場合は,上記修正根拠をご説明して,理解していただくほかないかと思います。

4 物損の場合

 一方,物損の場合,人身事故と異なり,通常二輪車側だけが損傷を受けるということはありませんので,被害者修正の部分が妥当しなくなります。なので,四輪車どうしの基準によるべきことを主張していくという方法がありえます。

 別冊判タ38号の309頁「1 序文 (1)過失相殺率の基準」でも,「単車側に人身損害が生じた場合についての過失相殺率を示している。・・・その他の場合については,本章の基準ではなく,四輪車同士の基準を準用するのが妥当な場合もあり得よう。」という記述がなされていますね。

 これをてこにして説得的に論じていけば,単車修正がなされない四輪車同士の基準で過失相殺率が認定されるかもしれません。

5 まとめ

 というわけで,物損事故の場合,自動二輪車(バイク)が絡んだ交通事故であっても,単車修正がなされない 四輪車どうしの基準によるべきことを主張していくという方法がありえます 。気をつけましょう。

・・・ただ,この理屈でいくと,人身事故であっても,人身部分と物損部分で過失相殺率が違ってもいいような気がしますが,あんまりみたことがありませんよね。なんでなんでしょう。