近年、非弁提携や横領等で逮捕される弁護士が相次いでいますが、苦労して取得した資格をかけてまでこのようなことをしてしまうのはどうしてなのでしょうか。弁護士や中小企業診断士として活動している身からすれば、その要因の一つは、生活費を含む固定費をかけすぎていることにあるように思います。

 至極当たり前の話ですが、売上が費用を上回っていなければ事業は成り立ちません。売上から変動費と固定費という費用をまず支払い、残った利益しか事業主は使えないのです※1。そこで、各事業者は変動費を下げて限界利益率を上げたり、固定費を下げたりして頑張っているのですが、弁護士のような士業の場合、そもそも変動費がほとんどありませんので、ここに工夫の余地はありません。したがって、士業事務所の経営というのは、固定費を超える売上を立て続ける営みということになります。

 ということで、それぞれ売上をあげるための工夫をしているわけなのですが※2、てっとりばやく売上をあげたいと思ったら、現に困っている人(今すぐ頼みたい人)をターゲットにしたリスティング広告やSEO対策を行うのが効果的なのですが、いずれもそれなりの費用がかかりますので、こういった宣伝広告を定期的に行うと、当然ながら固定費があがることになります。
 前述のとおり、固定費を上げると利益を出すために必要な売上も大きくなりますので、固定費があがればあがるほど、とにかく受任して着手金をもらわないと固定費が支払えないという状況になりやすくなります※3。しかし、弁護士も人間であり、1日は24時間、一週間は7日しかありません。とにかく受任するという行動を続けると、処理が間に合わなくなってきます。特に、見通しをあまり考えずに受任した受けるべきでない事案は、処理に困って停滞しがちです。

 「着手金をもらったけど事件処理が停滞している」という状態に陥った場合、ある程度受任を止めて処理を進めるか、停滞を解消するために弁護士や事務職員を雇用せざるをえなくなるのですが、固定費があがっている状態だと、「受任を止めると支払い(生活)ができなくなる」ということになりがちです。
 やむなく人を増やして対応すると、また人件費という固定費が増え、増えた固定費を賄うためにさらに受任を増やす、また停滞する事件が発生する、停滞を解消するために人を増やす、増えた人件費のために受任を増やさざるを得ない・・・※4という悪循環に陥っていきます。

  こんな悪循環に陥っているときに、「細かいことはこちらでやりますから、固定費を上げずに売上だけあげられますよ」とか言われたらコロッとやられそうですよね※5。
 固定費はなるべく抑え、足を知る経営をした方がよさそうです。 

※1 本当はここから税金が持って行かれるので、正確にはさらにその残りになりますが・・・
※2 弁護士がいう「マーケティング」が、ほとんど宣伝広告戦略か顧問の獲得戦略になってしまうのは、この辺の費用構造も影響しているように思います。
※3 実は、弁護士がある程度干渉できる売上というのは着手金くらいしかありません。着手金以外にも、報酬金やタイムチャージといった報酬もあるのですが、これらの額や入金時点は偶然性に大きく影響されるためです。この点、着手金は基本的に受任すれば発生し請求することができるので、他の報酬と比較してコントロールしやすいのです。
※4 なお、人が増えると、これに伴って不動産の賃料や水光熱費などの固定費も増えがちです。
※5 現実的には、固定費以外にも、常に受任を強いられ、相談の合間で限界いっぱいの仕事をさせられて疲弊したスタッフの離脱がありえます。しかも、他所に移籍することができるスタッフから離脱してしまいますので、最終的には、他所に移籍できない人だけが残り、固定費は発生しているが事件の処理は停滞したままという悲惨な状況となりかねません。